出張先で時間が余った.
普段なら周りをうろうろ歩いてみるが,あいにくの天気.
唐突に,文芸系の本と無縁の生活を送っていることを思い出し,駅前の本屋に入った.
適当に本棚を見ていると,吉村昭の本で見たことのない題名が文庫で何冊か並んでいた.それとなく一冊手に取り,中を見てびっくり.「こりゃ大変,早く買って読まなきゃ」.
本の題名は「死顔」.
すぐに支払いを済ませて,駅舎のひさしの下で,突っ立ったまま読んだ.
晩年の随筆をまとめたもので,吉村昭ファンなら読まなければならない内容だった.ま,未発表は一篇だし,そもそもファンならもっと早く読んでいるべきなんだろう(文庫化が去年の夏).
もともと「死」の影をひそませた作品が多い(気がする)作者だけど,その作者が「死」についてどの様に考えていたかをかなり直接的にうかがい知ることができる.他の小説でももちろん感じ取ることはできるけど,この本にまとめられている掌編に込められた死に対する思いと,その輪郭の鋭さに思わずたじろぐ.
一通り読み終えて,ぼんやり後書きを読もうと思って,また衝撃を受けた.「遺作について」と題された奥さんの津村節子さんの一篇が吉村昭の最期について書いている.凄みがある.この一篇を読むだけでも,本を買った価値があると思ったくらい.
なお,ここを読んで下さる方で,吉村昭ファン以外の方で,もしこの本に興味を持たれる方がおられたら,まず吉村昭の他の著作(初期のものがいいと思う)を読まれることをお勧めしたい.いきなりこの本を読むと,おそらくは「ずいぶん辛気くさい本だなぁ」という感想が先に立ってしまうと思われる.それはちょっともったいないので,ぜひ一つ.
もう一点.この作者の書く本の多くは,雰囲気は決して明るくない.いや,ほとんどの場合暗い.でも,もし読まれたことがなければ,お勧めしたい.「死」を書くことで「生きる」ことの尊さを表現するような書き方なのだと思う.というか「生」への執着の描写は非常に生々しくて,力強い.
執着と言えば(と続けていいのか),この作者の取材に対する真摯な姿勢も有名であり,史実ものが好きな方には,迷いなくこの作者の史実ものをお勧めできる.
むむ。俺もしらなんだ。
返信削除買ってみよう。
>ユングさん
返信削除おススメでございます!
ぜひ!
でも読んだ後はかなり鬱々とすると思いますので,他に読後感の
さっぱりした本も用意された方が良いかも知れません!
僕はさびれた田舎町で,しかも雨の降るどんよりしたお天気の下で
読んでしまいましたので,帰りの電車の中で「オレもきっと,
あっという間に老後という年になるんだ.あ〜,そういえばこの
年になってもやりたいことが全然できていないなぁ.そろそろ
優先順位をつけて,有限の人生の中でできることからやらなきゃ
いけないなぁ」などとガラにもなく重苦しく考えてしまいました.
年ですかねぇ(笑)